視覚伝達デザイン学科3年生。リアルな美大の日常を。
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ある水曜日の男。
0402
デニーズで壁画の仕事の打ち合わせをした帰り道のこと。
旧モデルのiPodは電池が切れ、わたしは音のしないイヤホンを付けたまま深夜の道路を自転車で漕いでいた。
疲れきって早く帰りたくて、何も考えず、見向きもせずに疾走していると、家の近くでうしろから若い男の声に呼びとめられた。
「こんばんはー!!」
私は思った。やばい、あたまのおかしい人だ。
無視してこのまま逃げようと漕ぎ続ける私に、しかし声は連呼し続ける。こんばんはー!こんばんはー!
やばいやばいやばい。
背筋が冷たくなった。脱する手段が何も思い付かなくなる。
とうとう追い付かれて、恐怖の貼り付いた顔で振り向く。
と、
「こんばんは!」
おまわりのおにいさんが必死に自転車を漕いでいた。
力が抜けたように自転車を止める。
職務質問が始まった。
黒ずくめなんてしてたことを後悔する・!ぢいや、関係ないか。
「君、信号無視したでしょ。」
「あ、そうですか。気付きませんでした(←本当)。」
「そりゃー、音楽聞いてりゃあね。」
若いのにねちねちとした口調。
聴いてないんですけどね、と思いつつ、言っても仕方ないので黙りこくる。
「社会人?」
「むさび生です。」
厳しい顔をされる。
「こんな時間になにしてんの?」
ああめんどくさい。デニーズで打合せした帰りだと説明。
「ああそう、防犯コード見せてね」
仕事だから仕方ないけど、なんで深夜の警察って毎回盗品でないかチェックするのかな。疑われるのは気持よくない。
おにいさんはペンライトで番号を照らす。
「福生からきてんの?とおいねぇ」
親戚に少し遠くまで車で買い出ししてもらったチャリだ。買った地名なんてわかる筈ない。
思わず反射的に呟いてしまう。「福生ってどこですか?」
おにいさんの表情が変わる。やば。。
「…コレほんとに君の自転車?」
もう…
「私のですよ。」
強い口調で言い張り、買った地名を知らない理由を説明する。
「そう、確認取るね。」
彼がトランシーバで確認を取ってる間、私は石のように不機嫌になった。まったく失礼な。
「あー…確かにあなたのですね。失礼しました。」
弱気になったおにいさん。
でも、と表情を直し、ふんぞりかえってたたみかける。
「最初僕が声を掛けても気付かなかったくらいなんですから、音楽聴きながら自転車漕がないようにしてくださいね」
私は自転車に跨った。
「変な人だと思って、逃げようとしたんですよ。」
途端に表情が変わるお兄さん。「…まぁそりゃあね…夜だし変な人も多いですけど…」
傷付いたらしい。
「あ、ごめんなさい。」焦る私。
「…いや別にいいですけどね…うん」
悪い事したなと思い、御勤めご苦労様ですと優しい言葉をかけて別れる。
帰ってそのことを彼氏さんに電話したら、意外にも彼はひとこと
「そりゃutoの勝ちだね。笑」
そうなのか。よく分からないけど、なんだか納得して床についたutoなのであった。
変な一日。
「水曜日は何でも起こる日」らしい。(上海ベイビーより。)