リアルなムサビの日常を
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君にも見えているか
FOR MUSABI
あんまり強い風なので、飛んでいけそうだと思った。
中学時代によく「寒さも暑さも感じなさそうだね」と言われたことがある。
寒いことも暑いことも嫌いだった。
隣りの子と声を合わせて愚痴を言い合うよりも、黙って耐えているほうがずっと有意義だった。
寒い時はもっとずっと寒い場所のことを思い浮かべて、肌に寒さが馴染んでいくのを待った。
喪服みたいに真っ黒なセーラー服を着て、人の言葉に相づちも打たず沈黙しているかわいげの無い自分のことが思い出される。
あれでよくこの戦乱の世の中学生時代を生き延びたものだ。
寒さを凌ぐ方法はただひとつ、「冬は寒い」それを認めることだ。
コートの襟をつかんで寄せても、てのひらを擦り合せても、仕方が無いんだ。
肩から力をぬく。
強い風よりも速く速く自転車を漕いでいく。
そのままあたたかい何かになっていく。
白い息が見える。もっと先には星が見える。
ずっと見えなかったものを取り巻いていた霧が払われていく。
オトギ