リアルなムサビの日常を
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白い闇
FOR WORLD
軽井沢に行くのはいつも冬。
「通の楽しみ方なのさ」と同行人は言っていたけど、
ただ単に夏が短すぎるだけだと僕は思う。
アウトレットをひやかして、○万円のブーツとか、メガネを見たりして、けっきょくそばパスタとかよくわかんないお土産だけ買って帰った。
近道しようとして、山道を歩いてみたら、ちょっとしたサプライズがあった。
どこもかしこも霧で真っ白なんだ。
「まるでノルウェイの森みたいだ」
もしくは、ボウルの中にまぶされた小麦粉の中で揺られているみたいだ。
すげえ、きれいだね、足が冷たいよ、どんな靴はいてきたんだ、え・ローファー、わたしのヒールを見てみろっ、え〜。
僕たちにしては珍しく、他愛のない話しかしていなくて、
中学のときのことを振り返って比べて、妙な気分になった。
今よりもっとどうしようもなくいびつだったふたりが、
そのままの形のままなんでもないような顔をして同じ土を踏んでいる。
ダサいジャージのこととか、大嫌いな給食のこととか、
なんかいろいろ思い出したけど不思議と過去の話をしなかった。
時間ってもしかしたら、許しなのかもしれない。
そんなこと思ったかもしれないし、思ってないかもしれない。どうだったかわからない。
駅前の下品なイルミネーションなんか全部消して、
真っ白な霧のなかをずっと迷っていたかった。
オトギ