リアルなムサビの日常を
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失われた故郷
FOR WORLD
冬は何もかも懐かしい。
肩から背へ伝っていくように容赦ない寒さも
ほんの少し尖って見える星の輝きも
東京にいるということを少し忘れさせられる。
きっとそれは僕が長野の生まれだからなのだろうけれど、
言い様の無いノスタルジーを感じてしまう。
ノスタルジーというのは、どこか帰りたい明確な場所があるとか、
そういう具体的なものとは遠いところにあると思う。
たとえばあなたにはあなたにしか帰れない場所があり、
僕には僕にしか帰れない場所がある。
1年のときの色彩論で、「郷土を感じる色」というテーマで透かしの勉強をした。
そのとき僕は夕暮れのサーモンピンクと稲穂のレモンイエローをメインに使った。
先生には「ちょっと弱すぎる」と言われたし
友人には「らしくてイイ」と言われた。
僕は「稲穂」というモチーフの間抜けさやダサさがとても身の丈に合っているように思えて、
わりと気に入っていた。
おそらく僕の見た稲穂の美しさを完璧に伝えることなどできていなかったろう。
稲穂を美しいと思ったのは小学校高学年のときだったか。
明日また同じ道を通って同じ学校へ行く耐えられない憂うつと、
とりあえず今日が終わったという安心感を胸に歩いていた。
たしかその日は幼なじみの男の子が欠席だったから、喋ることもなく。
顔をあげた瞬間にふく風の、甘く冷たい感触、稲穂の切っ先がつくるたおやかな波模様。
はーっと吐いた溜め息の熱さや白さ、どうしようもなく重いランドセル。
何もかも美しいはずの無いありふれた光景で、僕はそのとき完璧なものを手に入れた。
それは僕にしか帰ることのできない、失われた故郷である。
オトギ
ふぁー今日のエントリー、ぐぐっと心にきています。ほんとにオトギさんの世界はいいなー、心配事も悩み事も取り去ってくださいます(「北風と太陽」の太陽方式で)
もっともっと自由に生きていいんだ!とか勝手に思えました。
きょうもありがとうございます。
投稿者 takacha : 2012年11月03日 19:22
おおお ありがとうございます。
こういう文章に反応頂ける機会は比較的少ないので嬉しいです。へへ
投稿者 オトギ : 2012年11月04日 22:49