砂漠の井戸から

FOR STUDENT


画材を買いにバス停まで歩いて、40分
まだ痛い日差しの中
ねぼけた身体を起こすような感じで


歩いていると、坂が空が稲穂が家が 僕の頬をはたく
小学校や中学校への通学路なんて、たまらない
ほとんど覚えてないんだ 特に小学校なんて。
あのころの僕は今よりずっと貧しい人間で 
そんなふうに、すぐに忘れちゃえるような選択しかできなかったんだろう。
でも、ふりかえると、あの不安が、退屈が、怒りが 捨てたもんじゃなかったような気がして
あからんだ土やあぜ道がやさしく輝き
ほんの一瞬 嘘みたいにぜんぶ綺麗に見える。


足元の虫の死骸を踏まないようにして帰れば、
夜はもう、毛布なしに眠れないほど涼しくて
「砂漠みたいだ」と母が笑う。

たしかにここは砂漠みたいだったなあ。
小学校のときも中学校のときも
いつも渇いていたんだ。

そうだ
「砂漠がうつくしいのは、井戸を隠しているから」って

サンテグジュペリは言ってたよ。


井戸はたぶん、足元にあったんだ。


オトギ

投稿者:fantasy : 2012年08月20日 22:45

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コメント: 砂漠の井戸から

私も星のおうじさま、だいすきです^^
砂漠の井戸、という文字を見てピンときました。

投稿者 はるくま : 2012年08月20日 23:14

その一文でピンとくるとは!さすがです!
不朽の名作ですね〜〜

投稿者 オトギ : 2012年08月21日 22:05

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