あっけないほど綺麗

FOR WORLD


いつも帰って来たあとは、確かめるように散歩に出かける。

雑草に埋もれた神社とか、道路から割り出たアザミの花とか、
墓石みたいな記念碑のある公園とか…。
自然なんてこんなもんだよなあ、と思いながら歩いていく。
都会の電車の中づり広告にでるような「癒し」なんてものはなくて、
自然はもっと汚くてうるさい。
どこもかしこも生きる力でいっぱいだ。僕なんて食べられてしまいそう。
今日歩いた山道には熊がよくでるから、もう歩くなと言われてしまった。


息をきらして山道をのぼって、そこから見下ろす僕たちの町は
いつも 山に呑みこまれちゃいそうなくらい あっけない。
ボロボロのバス停は座席を雑草が突き破る。
川底にはビンの破片がひしめき、山道を黒服で歩けば蜜蜂の羽音がつきまとう。

ただひとつ、僕が心から美しいと思うのは田園の青色だ。
稲穂が揺れるのを見ると心が泡立つ。
からだが丸ごと脈打って、すこしだけ泣きたくなってしまう。
でもその青色の足元には泥があって、僕の嫌いなカエルやタニシなんかが息をひそめてるんだ。


クリームソーダを掻き混ぜたみたいに綺麗な青空。
道路を歩くのは僕一人
こんなにあっけない町の中、僕ひとり。
なんてことないただの夏。


オトギ

投稿者:fantasy : 2012年07月31日 23:05

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