甘い記憶

FOR WORLD


雨音のひどさに誘われるように二度寝して、
お昼頃までまどろんでいた。
そして、ハッと目が覚め

駄菓子屋にいこう。

と思いついた。
僕の場合、思いついた ということは、
多くの場合 決めた ということでもある。


上京して間もない頃、駅の向こうまであてどなく散歩した。
そのとき、たしかに あったのだ。
見るからに「当たり」という風情の うつくしい駄菓子屋さんが。
あのときは何故か気恥ずかしくて入れなかったけれど、
今日はなんとしても あのお店に入ってみたい。

そう思ったら早いので、さっと身支度をして歩いて行った。
東大和市駅から徒歩10分くらいかな

カンを頼りにまっすぐ歩いてみたら、たしかに あった。
今日もまた、表には玩具が並んでいる。
独楽やお面が賑やかに呼びかけているし、中から子どもの声がする。
籐で編んだような籠が棚に所狭しと並べられ、
値段はテープの上に手書きされ、
雑多とした印象なのに、洒落ている。
きっと、この店主さんのセンスがよいのだろうなあ と
楽しんで端から端まで眺めていく。

ちいさなころ買って食べきれなかった、大きな渦巻きのキャンディや
花の名前のついた金平糖
その名前に驚いて手に取って、弟と競って口にしたきびだんご

なんだか頭の中がキラキラとしてきて、
僕は堪らない気持ちになった。

店主さんを、勝手におばあちゃんだろうと推測していたけど、
おじちゃんがやってた。
子どもがお菓子をすぐに食べたいらしくて
「ハサミない?」
って聞いたのに対して
「そんなものは、ちぎって食べるんだよ。
歩いてる人を見てご覧。誰も刃物なんて持ち歩いてないだろう?」
というような答え方をしていて、
うわあ なんて洒落たひとだろう!
この人はきっと、駄菓子というものに美学をもっているのだ!


と感動して、じっとお店の片隅でうずくまりそうになってしまった。
まあ僕は、家に着いてからおとなしく、
指で封を切って、みずあめをひとり舐めているのだけどね。


こだわりのある商いをしているひとをみると、
なぜだか安心するのだよなあ。
うん、また 行こう。
駄菓子を食べるのではなく、あの場所にいるために 行こう。


と、僕はまた 思いつく。


オトギ

投稿者:fantasy : 2012年02月23日 20:04

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